神無月サスケの波瀾万丈な日常

神無月サスケのツイッター(@ktakaki00)を補完する長文を書きます。

Re:Kinderの感想

ぱるんさんの訃報を受けて、一刻も早くプレーしないといけない気持ちになったのが彼の最終作となった「Re:Kinder」です。

調べてみると、昨年の暮れあたりからニコニコ動画にアップされて盛況になるなど、彼の死後、さらにメガヒットを飛ばしているようです。彼が生きていれば、この反響をきっと喜んだだろうと悔やまれてなりません。きっと天国で喜んでいることでしょう。

今夜、プレーして、クリアすることが出来ましたので、感想を書かせていただきます。

オリジナル版のレビュー

その前に。Re:Kinderはリメイクということですが、僕はオリジナルのkinderもプレーしてレビューを書いてます。そちらもどうぞ。

当ブログのkinderレビュー→ d:id:ktakaki:20040303:p1

True Endを見ました

プレーにあたって、以下の攻略ページを見ながらやりました。
http://horahuki.yokochou.com/kin_kouryaku.html

おかげさまでTrue End(仲間を一人も死なせない)が見られました。「他のも見ろよ」というツッコミが入りそうですが、ホラーは苦手なもので、この辺で勘弁してください。

本題に入ります

まずは、オリジナルとの相違点から。テーマはうつ病、そして家族。これはオリジナル版と共通です。主人公達の構成も一緒で、大筋の展開に細かい違いは無いようです。

しかし、細部や演出は大幅にグレードアップしています。

そう。演出の大幅グレードアップ。僕は「平成ピストルショウ」をプレーしたのですが、そのエッセンスを多く取り入れているように思えます。突然始まるきらびやかな演出に魅せられました。その多くは様々な素材を使っていますが、それらを一見カオスに見えるまでに組み合わせ、そうやってプレイヤーをわざと混乱させる。シリアスな場面でも、シリアス一辺倒ではなく、絶妙にそういう要素を入れてくる、このバランスがにくいです。

そういった演出の中には、ギャグやシモネタもあり、「平成ピストルショウ」で免疫をつけていないプレイヤーさんには「なんじゃこりゃ」と思われる恐れもあるでしょう。しかし、僕には痛快でした。まるで、おもちゃ箱をひっくり返したように、次々に出てくる要素。シリアスなシーンをぶった切って出てくる変なギャグが出てきたり、時には明るい曲が使われるなど、素材の使い方が凄くて、この世界に身を投じるつもりでプレーすると、かなり痛快です。

例えば秘密基地の中にいる子ども達が、話し合いのシーンではまじめなのに、自由行動になると待機している子ども達が突然おかしなことを話し出す。それがあまりにも凄い。例を挙げると、ジャニタレに熱狂するファンを卵子に群がる精子だと言ったり、男女で「不倫上司とOL」ごっこをやっていたり。あまりの落差、作者自ら雰囲気をぶち壊しているけれど、あえてそこで新しい世界が見えるような、そんな痛快さがあります。

ラスボスのシーンでさえ、シリアスな会話の途中で一瞬だけ犬の画像が挟まれたり、ラスボスを倒した後のゲーム上最も重要なシーンの前にラスボスがテレビを見始めておちゃらけシーンが挟まれるのです!これには面食らうことでしょう。そう。本リメイクでは徹底的にプレイヤーを混乱させ、そこで痛快な気持ちにさせる、それに徹底しているのです。

その分、メインのシナリオが分かりづらくなる、という部分もあるかもしれません、僕はオリジナルをプレーしているので、そういうことはなかったのですが。しかし、そんなリスクを冒してでも、とにかくネタを入れたいという気持ちがあったようです。

あるテストプレイヤーさんの話で、生前ぱるんさんからこういう風にした意図を聞いたといいます。それによると、こういう演出過剰にした理由は、作中の重要人物、ゆういち君の内面世界を表現したかったからだといいます。僕はそれを聞いてからプレーしたので、腑に落ちました。一人の人間が考えていることは、一本道のシナリオで語りつくせるほど単純じゃない。何度も横道にそれて、いろんな要素が入ってくるだろう。そして楽しいもの、悲しいもの、それだけじゃなくシモネタも内包するだろう……そう思いました。

メインのシナリオについても、語るべき部分は、オリジナルから変わっていませんが、大幅にメッセージが増えています。うつ病に関しての「分かってもらえない」という描写も様々に形を変えて繰り返し語られ、じわじわと痛感して行きます。僕自身現在うつ病ですし、ぱるんさんもうつ病に理解のある人間なので、きっと無理解な人たちとの温度差を身にしみて感じているのでしょう。非常に一貫しています。「ギャグが挟まれるのでメインのシナリオが分かりづらい」という人でも、作者のうつ病に関する訴えは感じ取れたことでしょう。

ただ、僕は、現在進行形でうつ病なので、この作品の訴えは若干ヘビーすぎました。うつ病を強く表現するために、無理解な人たちを強く表現しすぎているのです。しかしそれでも僕は、これを表現してくれたことを絶賛したい。作者は現実から目をそらしていない。現実に、こういう形で立ち向かっているのだと思います。

もう一つ、この作品の主題に家族があります。ネタバレになりますが、登場するメンバーの全員が親か本人にうつ病がいたり、その他何らかの問題があります。「機能不全家族」という言葉があります。最近使われだしたアダルトチルドレンという言葉と一緒に語られることが多いのですが、彼らの家族は皆そういう問題を抱えているわけです。シナリオ上、主人公しゅんすけと、重要人物ゆういち以外の家族はあまり語られないのですが、この二人の家族を見ていて思うのは、僕自身の家族です。うちの家族も機能不全のところがあったからです。どこにも多かれ少なかれそういう部分はあるものでしょうが、やはり子どもにトラウマを与える家族環境というのはあります。僕はそのトラウマを克服するために相当苦労しました。今でも完全に克服出来ているのか分かりません。だから、この作品では描かれない、主人公のその後について考えてしまいます。主人公しゅんすけ君は、大人になったら誰にでも優しい人間になってほしいと僕からも思うのですが、こういう子どもって適切なケアをしないと、大人になったとき、子ども時代親がしていたことを繰り返してしまう部分があります。しかも、それを自覚せずにしてしまうことが多いのです。だから、この作品が機能不全な家族と、それに翻弄される子どもを描いたことは大きな問題提起となりました。ホラーゆえか、完全な解決策は示されなかったものの、それを探っていくのは我々プレイヤーに残された課題だと言えるでしょう。

次に、謎解きについて。僕は前述の通り、攻略ページつきっきりで解きました。これなしで解決することが出来たかというと、難しいと思います。また、ぱるんさん作品の戦闘はレベルが固定で、パズル的な要素が強くこちらも謎解きになっています。このように戦闘をパズルとして使うというのは面白いと思います。ただ、攻略サイトなしでTrue Endを見るのは結構大変だろうなと思います。オリジナル版の時から、かなり難しい謎解きがあった記憶があります。投げ出しかけて、RPGツクール2000を起動して中を見てようやく解けたものもありました。今回はRPGツクールVXの暗号化を施しているため、そういうずるは出来ません。どうしてもクリアできない場合、実況動画などがアップされているためそれを見ながら、という人もいたことでしょう。

そういうわけで僕は攻略ページを見ながらでしたが、謎解きを楽しみたい人は見ないでじっくり取り組むといいと思います。逆に、シナリオに没頭したい、謎解きが邪魔だという人は、実況動画がアップされているのでそちらを見るのでもいいと思います。動画だと途中停止、巻き戻しが出来るため、より理解が深まると思います。(実況者のしゃべりに相性があるでしょうが)

全体的なプレーの感覚として、ホラーと銘打っているけれども、ホラーが苦手な僕のような人間でも楽しめるというのが最大の特徴でしょう。ただし、トラウマチックなシーンがたくさん出てきて、自分のトラウマと向き合う必要が出てくることもあるでしょう。そんな中でギャグが出てくる、シモネタが出てくる。非常に癖があるといったら癖があるのですが、この痛快さは、一度経験する価値があると思います。