神無月サスケの波瀾万丈な日常

神無月サスケのツイッター(@ktakaki00)を補完する長文を書きます。

ツクールを扱った論文

調べ物をしていて、ふと面白いものを見つけたので、ツクールに関係のある皆さんに紹介します。なんと、DiGRA(ゲーム関係の有名な学会)のカンファレンス『DiGRA 2005』に、ツクールに関する論文が投稿、採用されていたようです。

Possibilities of Non-Commercial Games: The Case of Amateur Role Playing Games Designers in Japan
Kenji Ito

(非商用ゲームの可能性:日本のアマチュアRPGデザイナーの場合)

作者は、東京大学の方で、ゲームに関して詳しく研究されているようです。
http://d.hatena.ne.jp/kenjiito/
(※余談ですが僕も一時期はこういう研究がしたいと考えたことがありました。しかし、研究には客観性が求められるため、主観でものを言う僕には向かないと分かりました。)

さて、この論文のタイトルには「アマチュアRPGデザイナー」とありますが、扱っているのはツクールおよび、いわゆるツクーラーのことです。我々にとってお馴染みのツクールおよびその界隈が客観的な視点で、また海外と対比する形で書かれているため、かなり痛快に、そして新鮮な気持ちで読めました。

エンターブレイン内部のとある方にもこの論文を紹介したところ、担当の方は深く感銘し、「そうとう詳しく調べられている。一度お会いしてお話をしてみたい」と話しておりました。

そこで、エッセンスだけでもつかんでもらいたいと思い、要約してみました。

最初に注意

僕の訳が正しいとは限らないし、僕の主観も述べているし、全部を紹介したわけではないので、興味を持った方は、是非原文を読んでください。原文は英語ですが、日本人が英語で書いているので結構読みやすいです。(難しい単語が多いので辞書は必須ですが。)

RPGツクール2000

RPG制作において日本で一番人気のあるツールとして紹介されています。ツクールの歴史、制作方法、多彩なゲームが作れることなどが述べられています。
注目すべきは「2Dのゲームしか作れないが、日本ではそれが不利にはならず、むしろ3Dよりもアピールする点を見つけている」と書かれていることです。我々にとっては自明のことですが、海外の人に、わざわざ明記する必要があるのは、文化が違うからでしょう。

ツクーラー(Tkoolers)

いわゆるツクーラー(ツクラーという表現もあるが、ここではツクーラーで統一)のコミュニティについて考察しています。
皆さんもご存知「ツクラーさんに100の質問」の回答を参考に、年齢性別の大まかな分布も出しています。(もちろんデータとして問題がないわけではないことは著者自身も指摘していますが、大まかな傾向を見る点ではいい)
また、「なぜツクールを始めたのか」という質問の答えを分析し、非常に様々な動機があることについて述べ、それでも技術的に困難でなく、楽しんで作れるようになっていることを述べています。

ツクールゲームの制作、取り巻く環境、消費

制作に素材サイト(FSMや、Freedom Houseなど)を利用したり、ウェブ上でグループを作ったり、完成した作品の配布や、プレイヤーと作者の交流も含め、ウェブ上を中心にしたコミュニケーションが盛んだという話です。
エンターブレインのコンテストパーク(コンパク)の名前ももちろん出ており、ツクーラーにとっては、読んでいてワクワクする章です。
ツクーラーとプレイヤーのやり取りは、それ自体がオンラインRPGのようだと考察しており、僕も的を射た意見だと思います。確かにツクールでゲームを作るというのは、一つのゲームをプレーしているようなものです。

ツクール作品

海外の人のために日本のRPG事情について述べたあと、様々なツクール作品を紹介しています。

  • Seraphic Blue』や、『Another Moon Whistle』は、楽しいというより欝になり一般向けではない話だが、商用ゲームでは表現できないテーマを扱っている。
  • 女性作家によるゲームは独自の視点を持っている。『プレイアちゃんの勇気』はジェンダー差別を扱っており、一方で『リーフ村村長物語』は女性が村の発展のために努力する。
  • 他にも社会問題を扱ったゲームは多い。しかしアマチュアゲームの場合、商用ゲームとは違い、必ずしも一般的な良識に基づかなくてよい。例えば禁煙運動を風刺したアマチュアゲームもある。(さすけ注:『ビキニスモーカー』という作品のことを言っているのだと思われる)
  • コンシューマーゲームとの大きな違いは、自由で、自己反映的なところだ。ツクール2000を持っていれば、これらのゲームはプレイヤーが自由に改変できるし、開発者もアップデートパッチを出しやすい。
  • ツクールそのものをテーマにしたゲームもある。『ツクラーの野望』はプレイヤーがツクラーになり、ゲーム内でゲームを作るというゲーム。町を歩きインスピレーションを得る、テストプレーをし、うまく行けば金賞。こういうゲームの存在が、ツクールにおける制作者とプレイヤーの距離の近さを改めて感じさせる。

結論

コンシューマーゲームの開発はより複雑に、高コストになっており、必然的に続編など保守的なものが多くなる。一方で、アマチュアデザイナーは、お金を稼ぐことを考えていないため、企業が作れないものが作れる(技術的な部分など、劣る部分もあるが)。
よって、アマチュアゲームには多くの可能性がある。

補足

これは論文ではなく、はてなダイアリーの著者のブログだが、以下のような文章を見つけた。
http://d.hatena.ne.jp/kenjiito/20050919/p2

今のところストーリーの点で、商業用ゲームではありえない(あるいはありにくい)ものが出ているけれど、このゲームのようにゲームデザインで斬新なものがどんどん出ると良いと思う。失敗してもよく、売れなくても良い、というのが商業用ゲームに対するフリーゲームの最大の強みなのだから。

今現在、RPGツクール2000および2003が成熟し様々なテクニックが共有され、RPGツクールXPがそろそろこなれてくる時期であり、ツクールにおける設計の自由度が以前にも増して高まってきている。ゲームデザイン的に驚くようなゲームはさらに増えていくだろう。アマチュアゲームの今後にさらに期待したい。

追記:このような論文が出た意義 7/20 23:20 、7/22 1:30微調整

ツクールおよびそれを取り巻く環境が研究の対象となった……この意義を考えてみると、なかなか興味深いものがある。昔は「適当なゲームを気軽に作れるもの」という位置づけだったツクールが、徐々に進歩し、そしてインターネットの普及によりコミュニティも成熟し、そして何よりエンターブレインの営業努力も実り、いまやツクールがアマチュアゲーム制作におけるひとつの位置づけを獲得したことは、ツクーラーを自称する皆さんなら実感してきたことだと思う。この論文は、まさにそういった事実を再確認し、後押しし、世界に示すものになったといえる。

確かに現時点ではどれだけの学者が注目しているかは分からないが、少なくとも『ツクール』というのがひとつの論文のテーマになり、研究のサブジェクトになりうることが証明されたわけである。

この論文が出たことは、ツクーラーの我々にとって、士気を高めてくれるものではないだろうか。以前はツクールと聞いて「子供の玩具」と偏見を持つ人は少なくなかった。今ではRPGツクールXPのように、本格的なゲームプログラマーにこそ大きな福音を与えるツクールが出てきて、さらに優秀なツクール作品がフリーゲームで話題になる事も少なくない。そんな現状でこういう論文が出てくることは、ツクールの認知度を高めるものだといえる。

なお、この論文が書かれたのは2004年半ばごろだと思われる。この後大きく変わったのは、RPGツクールXPが『RPG Maker XP』という名前で全世界で発売されたことだろう。これによって、より各国間の『ツクール(Maker)』における比較などがしやすくなったと思われる。今後アマチュアゲーム研究において、各国間のツクールおよびMakerが、比較される場合、この論文も引用されていくことになるだろう。

今はまさに、過渡期だといえる。アマチュアゲームプログラミングとツクールがシームレスになりつつあり、また、同人ゲームやシェアウェアなどが活発になれば、アマチュアとプロの境目も微妙になっていく可能性がある。逆に言うと、そんな時代だからこそ、個人の努力が様々な形でコミュニティを変えていける。だから、ツクーラーの皆さん、個人の、コミュニティの力を信じて、今後も頑張っていきましょう。未来は流動的だから、あなたの行動によっては、将来あなたの作品やあなた自身が研究の対象になっているかもしれない。なんといっても、アマチュアを動かしている一番の原動力は夢なのだから。