神無月サスケの波瀾万丈な日常

神無月サスケのツイッター(@ktakaki00)を補完する長文を書きます。

「勇者と心の鍵」メイキング

年末ということで、せっかくだから、サンプルゲーム「勇者と心の鍵」が出来るまでを書いてみようと思います。

本当は攻略などをしたかったのですが、このゲーム、そんなに攻略が必要になるような性質のゲームではないと思いますので。何かあったら相談してください。

さて。

最初に、サンプルゲームの話が来て、RPGツクールVX Aceのα版をいただいた。そしてどんなゲームを作ろうか考えていた。丁度ムンホイXPの後だし、その素材を流用して現代物でも作ろうかな、と最初は考えたものだった。しかしタイルセットの仕様がVXは(VX Aceも)どうも現代物向けではないため、かなり大変だと思い、RTPを使ったファンタジーで行くことにした。現代物専門の僕にとって初めてのファンタジー作品。

しかし、困ったことに。これまで僕は「剣と魔法よりは剣とコーランイスラム教)の方がまだイメージが湧く」などと言ってきた人間。どう作ればいいのかさっぱり分からない。何が分からないか。まず、固有名詞の付け方が分からない。町の名前や登場人物の名前が全く思いつかない。現代物なら、日本人にありそうな名前を付けていけばいいので楽だ。ファンタジーってそもそもどういう世界なんだ?考え出したら止まらない。

そこでまず僕は氷石君を頼った。彼はファンタジーが得意だ。固有名詞の付け方の指南を一通り受けた。これで何とか主人公の名前を付けることが出来た。町の名前も、いろいろひねって付けることが出来た。

次にやったのは、ブラック・ウルフさんに相談すること。彼は「きみは勇者じゃない!」などファンタジーっぽい世界観の作品をいくつも作っているため、彼と相談すれば、作れるんじゃないか、と。丁度彼とオフで会う機会が出来たので、そこで相談しあおうということになった。

そしてオフの日。福岡市内の天神のカフェなどを回りながら、いろんなネタを出していく。しかし、僕とブラック・ウルフさんである。いずれも独特の個性のありすぎる面子である。僕は「サンプルゲームだし、少しは万人受けするものにしよう」と思っていたが、正直そんなものはどこかに吹っ飛び、たががはずれてしまった。

二人で話し合ったのが、まず最初に、当時(今も少し)精神的に調子が悪く、デスクワークは出来ても、創作のようなクリエイティブには身が入らないという話をして(それでシナリオを一緒に考えて欲しい、とブラック・ウルフさんには相談したのだが)「それなら、『心の病』をテーマにしましょう」ということになった。僕の今抱えている問題と、まさにオーバーラップするわけである。しかし、サンプルゲームといえば、僕は以前「ぼくのすむまち」という毎回ワンテーマを扱った連載RPGを作ったことがあるが、この第3話で、ホームレスやゴミ屋敷、騒音おばさんなどをテーマにして、編集部を真っ青にさせたことがある僕だった。心の病なんかテーマにしたら、また同じようになるに違いないと思った。しかし我々は止まらなかった。一度テーマが決まってしまうと、そのテーマで次々に暴走していくのであった。いつの間にか「町は4つ、そしてそれに付随するダンジョンも4つで」という風になって、あらすじもほとんど決まってしまった。

こうして夜になって居酒屋に入り、さらに構想を膨らませたのであった。二人ともお酒が入り、さらに暴走は拡大したのであった。さすがにネタも出尽くしていたが、ドラクエの『ちいさなメダル』的なものを入れよう、「なないろびーだま」という名前ではどうか、というのは、居酒屋の中で出たネタだった。主人公達の性格も徐々に固まっていき、居酒屋を出る頃には、完成版のキャラの性格がほぼ固まっていた。

こうしてブラック・ウルフさんにおんぶにだっこで完成したシナリオだが、酔いがさめてから、結構青ざめてしまった。「こんなシナリオ出して先方は何というだろうか……」恐る恐る、概要を原稿用紙3枚程度にまとめて、トシ重さんに送ったところ、何と、いくつかの条件付きでOKを出してくれたのである。正直、奇跡だと思った。それとも、僕にサンプルゲームをお願いする時点で、こういうシナリオが上がってくることは織り込み済みだったのだろうか。いずれにせよ、トシ重さんには僕は足を向けて寝られない。

ちなみに、修正を求められた点は、「実在する精神病の名前を使わないこと」と「主人公の心の病は、精霊の力によってなされたものだ、というように、心の病を婉曲したものにすること」だった。それにしたがってOKが出たのが完成版だが、どうだろうか、あまり婉曲できていない気もするし、これでOKな気もする。ぎりぎりセーフというか。いずれにせよ、いろいろと伝説を作ってしまったことは間違いないようだ。

それ以外の点はあまり特筆するべき点は無い。マップや、ゲームバランスについては、淡々と作った。

せっかくだからゲームバランスについて、皆の参考になるようにいくつか話しておこう。VX以降、戦闘計算式の基本が、(攻撃×4−防御×2)になっている。一方ツクール2000では(攻撃÷2−防御÷4)である。これが何を意味するか。攻撃力1の重み付けが、VX Aceでは、2000の8倍なのだということである。言い換えると、VX Aceで攻撃力や防御力を1変更するのと、2000でそれを8変更するのは同じ効果があるということだ。微妙な数字の変更がバランスに大きな影響を与えるということだ。そこで、僕はあまり攻撃力などを大きく変更しないようにした。一方、主人公達のHPを3桁にして、攻撃力、防御力の1違いによるダメージの影響を大きくした。結構バランス取りがシビアになるが、そこは長年の勘とテストプレイで調整して行った。このように、攻撃力や防御力1の違いが、VX以降はこれまでのツクールに比べて大きな影響を与えるため、慎重に行くといいだろう。不安な人は、戦闘計算式をツクール2000のものに戻したほうがいいかもしれない。

ちなみに、「勇者と心の鍵」の防具には盾が存在しない。これはリンダの武器が弓、トルマンが斧というようにいずれも両手持ちの武器のため、盾があっても主人公しか装備できないということになりそうなので、いっそのこと盾はなくしてしまえ、ということだった。そんなもの入れなくても十分バランスは調整できる、と。

スキルについては、今回VX Aceで魔法反射やリジェネ、装備中だけ技を覚えるなど嬉しい追加要素がたくさん出てきたので、それを有効活用する方向で行った。これらを有効活用してもらうため、防御力の上下などの基本的な魔法をわざと廃止してみた。これで戦略的に面白くなったと思っている。皆さんも魔法反射やリジェネを有効活用してくれたと思う。

そんな感じでバランスはともかく、シナリオについてかなり不安なまま完成したゲームだったが、反響を見るとそう悪くもないので、とりあえず良かったかな、と思った。まあ僕がこういう作風の人間だと皆知ったうえでプレイしてくれたから良かったと思う。これからプレイする皆さんは、くれぐれも僕が万人受けのゲームを作る人だとは思わないでくださいね。しかも今回はブラックウルフさんとコンビでシナリオを作っていますから、この二人のダークな側面が出てしまうと、どんなことになるのか、プレイして確かめてみてください。