神無月サスケの波瀾万丈な日常

神無月サスケのツイッター(@ktakaki00)を補完する長文を書きます。

RPG Maker Uniteの開発に付き合いながら見えて来たもの

この記事は、ツクールアドベントカレンダー2023 の3日目の記事になります。
adventar.org

はじめに

2023年5月、RPG Maker Uniteがリリースされました。
これは、Unityのアセットとしてリリースされた初のツクール(Maker)で、
Unityに明るい人なら、様々な拡張が可能になっています。

また、発売前から、紹介記事にて多くの新機能が紹介されていたこともあり、
期待していたツクラーさんも少なくないかもしれません。

現に、Unityユーザーが、様々な改造を施すなど、話題性は抜群でしたが、
当初の期待に対し、現時点では、あまり良い話を聞きません。

そこで今回は、Unityの目指したもの、
そして現実、目の前にある問題点などを分析していきたいと思います。

RPG Maker Uniteと僕

僕は開発に加わり、ツールのデバッグとともに、サンプルゲームの制作や、
初心者講座の執筆を担当しました。
つまり、Uniteの成り立ちから見てきているため、
いろんな感慨と経験があります。

ここでは、守秘義務に抵触しない範囲で、
それらを踏まえた紹介を行いたいと思います。

Uniteが目指した理想と現実

アウトラインエディタ:ストーリーライン

紹介記事
https://store.steampowered.com/news/app/1650950/view/4996189706098265131
初心者講座での解説
https://rpgmakerunite.com/learn/012.html

Unite アウトラインエディタ

これはゲームの流れを分かりやすくして、
挫折を減らすことを目的に作られました。
しかし、このアウトラインエディタ、全くゲーム作成に必要ではないうえ、
かえって手間がかかるので使わない人の方が多かったかもしれません。

オートガイド

紹介記事
https://store.steampowered.com/news/app/1650950/view/3220657507039652141
初心者講座での解説
https://rpgmakerunite.com/learn/011.html

装備の威力や値段、敵キャラの設定などを行ってくれます。
これは、バランス調整が大変だという人が多いため、自動で適切な値を設定してくれるという、Uniteの目玉機能になりえた物でした。

しかし、設定を行う順番が決まっており、先に設定しないと正確な値が出せないことで若干窮屈に感じます。

また、武器防具でオートガイドを適用すると、値段が結構ガバガバなうえ、
攻撃力や防御力も、「これで大丈夫?」って値が出てきます。
とはいえ、これを設定した後、敵キャラをオートガイドで設定すると、
それなりの値を出してくれます。
ただし、その敵を単体で出すのか、複数で出すのか……などは
考慮されていない為、そのままの値にするのは、難しそうです。

サンプルゲームのUnite Questでは、専らオートガイドで設定を行っているようですが、若干不自然な感覚は否めません。

タイルセットに縛られないタイルの配置

紹介記事
https://store.steampowered.com/news/app/1650950/view/3181242290510188241

オリジナルタイルセット設定

これまでは、タイルセットを入れると、まるごとインポートされるため、
少しのタイルを使用するだけなら、
かなり不要なタイルがインポートされていました。
そこで、任意のタイルの集まりをグループ化し、いかなるマップでも任意のタイルを置くことが可能になりました。

問題点:起動までの時間が長すぎる原因になった

今回の実装では、タイルセットという定義を無くしたため、
1タイル=1ファイルというとんでもないことになっています。
しかも、A1などのアニメーションタイルに至っては1タイルにつき、
48個もファイルが使われています。
このため、ファイルをひとつずつ読み込むのに時間がかかるのです。

もっとも、バージョンアップのたびに起動時間は短縮しているようですが、
この仕様を何とかしないと根本的な解決にならない可能性があります。

アニメーションパターン数を自由に変更可

紹介記事
https://store.steampowered.com/news/app/1650950/view/3181242290510188241

同じ歩行キャラでも上下左右で異なるアニメーション数に
出来るようになりました。
また、サイドビューアニメーションも同様。しかしその結果……

問題点:新たな素材の設定が地獄になった
上下左右+倒れの設定

これまで1キャラの歩行グラフィックは、ひとつのファイルで十分でした。
各方向に画像ファイルが4枚(+倒れも入れると5枚)必要になりました。

サイドビュー18パターンの設定

サイドビューに至っては18パターンです。
MVやMZではひとつのファイルにしていたものを、ひとつの動作ごとに
ファイルを準備する必要が出てきてしまいました。

補足

ぴくせる すけゐらぁ
Uniteでは、画像には、上下左右に1ピクセルの余白が必要になりました。これは、画像ファイルの上下左右が1マスずつ描かれないという仕様によります。
仮に、MVの48x48の画像を表示するには、98x98、つまり縦横2倍96x96に余白を……というのが理想なのですが、ピクセルスケイラーは48x48を96x96にしかできません。
これでも動くには動くのですが……。

まとめ

高い理念を持って入れた新機能だったが、それほど便利ではないうえ、
かえって足枷になっている部分の方が多いという、
かなり残念な結果になっている気がします。

割と成功している部分

一枚絵マップ

紹介記事
https://store.steampowered.com/news/app/1650950/view/3373776723232833370
初心者講座の解説
https://rpgmakerunite.com/learn/010.html#03

一枚絵マップ

ツクール2000などでは、視差ゼロの遠景を設定すると、
その一枚絵をマップにすることが出来ました。
これにより、タイルセットだけでは表現しにくいマップも作成が可能でした。
Uniteでもそれが可能になりました。

Uniteでは、背景という項目がマップレイヤに追加されており、
ここで一枚絵の設計が出来ます。
通行判定は、「コリジョン」で設定が可能です。

ランダムエンカウントにおけるランダム構成

初心者講座の解説
https://rpgmakerunite.com/learn/010.html#04b

バトルイベントの必要ない、一般戦闘では、わざわざ敵グループを設定せずとも、登場敵キャラの最大数および、各敵キャラの最大出現数を設定すれば、任意の組み合わせの敵グループを作成することが可能になりました。

なお、ワールドマップなど、範囲によって敵グループを変更したい場合、リージョンを指定します。各リージョンに、登場する敵グループを設定できます。

スキル使用時、使用者側の副作用を設定可能に

初心者講座の解説
https://rpgmakerunite.com/learn/007.html#04

経験値の仕様

初心者講座の解説
https://rpgmakerunite.com/learn/008.html#02
獲得経験値は、生存アクターで山分け方式になりました。

メニュー画面のレイアウトを変更可能


UIパターンのバリエーションが豊富です。

  • MZでいうところのデフォルトと、AltMenuScreen系のプラグインでのレイアウト、いずれかを選択可能になりました
  • いずれでも、各キャラの表示を「歩行キャラ」「顔グラ」「立ち絵」から選択可能になりました。

まとめ

頑張っている所は頑張っているといえるでしょう。
MZをベースに、より使いやすいものを……と考えたスタッフの熱意をここは評価できます。

使いにくく感じる部分1:マップ作成編

オート影つけの廃止

オート影つけが無い

オート影つけが廃止されました。
オート影つけは、ツクールVXで初導入され、
それ以降、昨今のツクールでは当たり前だったのに、
それが無くなったのは、あまり感心しません。

なお、下層(レイヤA,B)と上層(レイヤC,D)の間に影ペンがありますが、
いちいちやるのが面倒なのは言うまでもありません。

タイルのマップが作りにくい1:レイヤの問題

MZでは、どのレイヤに置くかを自動で決めてくれる機能がありますが、
Uniteではそれがなく、レイヤを指定してタイルを置く必要があります。
自由度が高いので、それほど問題ないかもしれませんが、
慣れるまで時間がかかりそうです。

白状すると、僕はサンプルゲームを作る際、
先にMZでマップを作り、移植していました。

タイルのマップが作りにくい2:シフトが使えない

シフトとは、マップを上下左右に一定の数値だけ移動するもので、
全体的な調整を行う時に使う機能でした。
マップを書くときには、かなり重要な機能のはずですが、
それが出来ないので不自由を感じるかもしれません。

タイルセット素材はMZの使い回し

これは使いにくさではないが、新しいツクールで、
古いツクールとタイルを共有するのはいかがなものか、と思ってしまいます。
前述のように、一枚絵マップが可能になったので、
そちらに重点を置いたということでしょうか。

イベント画像にタイルを設定できない問題

これは、地味に重大な問題です。
これまでのツクールで当たり前に出来ていた
「イベント画像をマップタイルにする」が出来なくなっているのです!
解決のためには、タイル画像のキャラクターを作る必要があります。
これには面食らった人も多いため、今後の改善が求められます。

まとめ

マップ制作は、完成版では、かなりましになっていますが、
開発中は深刻に使いづらかったため、
僕は前述のとおり、サンプルゲームを作る際、一度ツクールMZでマップを作成し、それを見ながらにUniteでタイルを置いていきました。
それくらい使いづらかったということです。

そして、それゆえに、自動影つけの廃止は、MZで組んだマップと比較すると、
確実に見劣りするなあ、という感想を持ちました。

使いにくいと感じる部分2:システム・データベース編

データベース各項目で、複数選択によるコピー&ペーストが出来ない

データベースのデータがツリー状のヒエラルキー

MZでは、複数の項目を選択し、移動することで、空きを作ることが出来ました。
Uniteでは、間に新たな項目を挿入……といったことが出来ない為、
適宜予備用の空項目を作っておく必要があります。

これは、ヒエラルキーがツリー状になっている以上、仕方のない仕様ではあります。しかし、それゆえに従来のツクールと異なり、自由度が下がったのは否めません。

スキルタイプは実質『魔法』と『必殺技』のみ


他のスキルタイプの追加も可能ですが、
この場合、オートガイドが作用しなくなります。
つまり、これ以上の追加は、行わない方が無難ということになります。

『画面の色調変更』が不自然

Unity準拠の色調変化のため、従来のツクールと比較して
色調の変化が若干不自然に感じます。
「夕焼け」や「セピア」の値は、
僕が試行錯誤して提案した値が採用されています。
だがそれでも、若干不自然さは残っており、これは致し方ないようです。

パーティーは4人まで

控えメンバーを作れなくなりました。地味に不便かもしれません。

アイテムや装備などのアイコンの選択がしづらい

アイコンがひとつずつしか表示されない

画像のように、理解に苦しむ指定方法です。
これまでのツクールではアイコンが一覧として表示されていましたが、
ひとつずつしか表示されないので、とても使いづらいと感じました。

装備の能力値に負の値が設定できない

「防御力が高いが素早さが下がる」といった装備が作成できません。

メッセージウィンドウの話者ウィンドウの問題

最大9文字しか表示されません。
10文字を越えるとその部分が切れてしまいます。

まとめ

最初の3つは、Uniteの仕様ゆえの問題。
後者4つは、バージョンアップで改善できないだろうか、と期待します。

その他の問題点・懸念点

メモリが8GB程度だと厳しい

僕の環境は、2018年夏モデルのノートPCなので、8GBですが、
これだとUniteのエディタが大半のメモリを占有してしまいます。
タスクマネージャーでメモリの使用率を見ると、良く分かります。

現に、他のソフト(例:Youtube閲覧中のChrome)が起動した状態で
Uniteを実行すると、メモリ不足とかでエラーが出て起動できませんでした。

32GB以上とは言わなくても、せめて16GBが最低推奨環境になりそうです。

アドオンがバージョンアップで使えなくなる可能性

開発中は、バージョンが上がる度に、
旧バージョンで作ったアドオンが動かなくなっていました。

Uniteβ版がアップデートされるたび、作ったアドオンが動かなくなり、
悲鳴を上げているサンプルゲーム作者さんがちらほらいました。

MVやMZでは、早い段階に基礎的なシステムが作り上げられており、
そこでプラグインを作っても、使えなくなることがなかったのと対照的です。

果たして今後のバージョンアップで、
旧バージョンで作ったアドオンが使えなくなる可能性が、なきにしもあらず、
ということです。

おわりに

尾島氏が関わらなかった故の悲劇

MZのコアスクリプトを読んで勉強会を行ってから組み始めたようですが、
その割にはエラーが頻発していました。
やはり尾島氏のコードは美しすぎて、なかなか他の人では真似できない、
ということだろうといえます。

現に似たような状況として、MV Trinityがありますね。
こちらも、尾島氏のコードを熟知して取り掛かったのでしょうが、
発売直後から、相当数のエラーを出していたことは、御存知の通りです。

今後のバージョンアップではどうなる?

上記では敢えて挙げませんでしたが、使った人が誰もが感じる
「何をするにも時間がかかる」点は、かなりネックです。
現在は、パフォーマンスの改善を最優先にしているようなので挙げませんでしたが、果たしてこれをどこまで改善できるかは気になります。

しかも、パフォーマンスを克服してもなお、
ここで挙げただけの問題を抱えています。
果たして柔軟に対応できるのか、今後が気になります。

一番不穏なのが、Steamで、RPG Maker UniteがDL出来なくなってしまったこと。
クオリティの低いソフトは、販売中止にされるといいますが、
仮に公開中止の理由がそれだったら目も当てられません。

今後、問題が少しずつ解決していくのを祈りつつ、筆を置きます。