神無月サスケの波瀾万丈な日常

神無月サスケのツイッター(@ktakaki00)を補完する長文を書きます。

死にたいときのための漫画紹介・その2

先日に引き続いて、死にたい気持ちが断続的におさまらない僕が現在進行形で心の支えにしている漫画を順不同で紹介していきます。

御緩漫玉日記

御緩漫玉日記 3巻 (Beam comix)

御緩漫玉日記 3巻 (Beam comix)

皆さんは桜玉吉をご存知でしょうか。

ファミコン通信(現・ファミ通)で「しあわせのかたち」を連載しており、ナンセンスギャグやほんのりエロなど多彩なネタで90年代前半のファミ通誌面を楽しませてくれた人です。「しあわせのかたち」連載終了後も、「ブロイラーおやじFX」などのエロネタや「防衛漫玉日記」のようなエッセイ漫画で全く勢いの衰えを感じませんでした。


しかし僕が数年目を離していた間に、調子がおかしくなっていた様子です。

桜玉吉は着実に『つげ義春』化が進行している」という巷の噂を同じく桜玉吉ファンの友人から聞かされていました。

その意味するところは、つげ義春は「ねじ式」くらいしか知らない僕でも確かに感じ取れました。ファミ通不定期に載るコミックビーム宣伝四コマ(読もう!コミックビームという名前で単行本化している)を見ていれば、以前はふざけた感じでありながらもコミックビームの宣伝をしていたのに、最近では桜玉吉の日常の些細なことに終始しているのです。それでもギャグで強引にしめるあたりが好きだったのですが、その日常のあれこれから、妙な枯れっぷりを感じていました。


そんな時「久々に桜玉吉の漫画でも買ってみるか」と思い手に取ったのが御緩漫玉日記の1巻だったのです。

で、本を開いて思ったこと。

なんか、いい感じの枯れっぷりだな。

1巻は「熱海(伊豆か逗子だったかも)に住みたい」ということで不動産屋に相談したり、ローンを組んだりという体験談。正直コミックビームの読者層とまったくずれている内容なんだが、彼も歳なんだろうし、桜玉吉独特の語りと画風で面白く書かれているので、OKだと思いました。

で、僕は1巻を読んでいる間、てっきり桜玉吉は還暦を過ぎているとばかり思っていました。

人の少ない温泉に行ったり、だるままつりを見に行ったり。いい感じの定年後の生活だなーと。


しかし友人に聞くと、実際はまだ40代だというじゃありませんか。

wikipedia:桜玉吉

Wikipediaで見ても、執筆当時は40代前半だったことが分かります。

40代前半という壮年期の時期に、なんという枯れっぷり。合掌。


そして、この枯れっぷりは、巻を追うごとにエスカレートしていきます。

最終巻の3巻に至っては、大半が自分の幼少時代や青年時代の思い出話で占められています。しかも終わり方も半端ではない。ネタバレになるので詳細は避けるが、連載終了の理由は「執筆活動が続けられなくなった」ということだが、その理由があまりにも壮絶すぎる。身体を張っていたゆえなのだと分かる。


というわけで、僕が死にたいときに一番元気をもらえるのが、この最終巻、3巻なのである。

死にたくなると僕は、昔の思い出を思い出す。楽しかったこと、苦しかったこと……そして昔を懐かしんだり、悶絶したりする。桜玉吉の回想を見ていると、そして終盤、悶絶しながら漫画を描く様子を見ると、一番つらいときの自分とオーバーラップしてしまうのである。そうすると、なぜか絶望感が、すっと薄らいでいく。明日も生きてみようという気持ちになれる。


唯一の難点は、桜玉吉のファンでなかった人にいきなり勧めるのは難しいことかな。独特の作風は健在だし、枯れているとはいえ、エロ要素も健在である。ただ、彼のエロはインパクトは感じるしフェロモンも出ているが、いわゆる寝床に持っていって楽しめるタイプのものではないと個人的には思っているため、受け入れられない人は、アートとして受け入れるのがいいと思う。


おやじの惑星

おやじの惑星

おやじの惑星

桜玉吉とエロということでもうひとつ。

僕にとって桜玉吉はエロを描こうとしても、どこかギャグになってしまう。寝床に持っていく気にはなれず、笑って楽しむ。そこがいいのである。

この本、90年代前半ということで絶版だが、なんと文庫版が出ているようだ。

おやじ文庫 (ビームコミックス文庫)

おやじ文庫 (ビームコミックス文庫)

「おやじ文庫」というタイトルだが、内容はほぼ同一らしいので、今買うならこっちかも。

内容は、桜玉吉があちこちに発表した漫画の寄せ集めなのだが、表題の「おやじ」にまつわる漫画を多く取り入れている。

「おやじ3部作」として「反逆のトリロジー」「のんきな父さん」「つやつやおやじ」がある。この中でも「つやつやおやじ」が凄い。先に残りの2作を紹介しておく。「反逆のトリロジー」は七色鉛筆を使って描かれた世直しオヤジがこぢんまりとした活躍をする漫画。「のんきな父さん」はファミ通などでもたまに載っていたが、父が息子に些細な嫌がらせを延々と続ける、ただそれだけの漫画。妙にインパクトがあるらしく、「のんきな父さん」単体でも単行本化されている。


しかし「つやつやおやじ」インパクトは、他を圧倒する。

もともと高須クリニックの宣伝四コマとして描かれたそうだが、いい感じに下品(あえてエロとは言わない)、いい感じに暴走している。

主人公のおっさんはキンレーホーという中国人、金冷法のもじり。毎回このおっさんが妙なことをしでかして最後はお巡りさんにしょっぴかれていく、というのがお決まりのパターン。

特にインパクトに残っているネタをいくつか(18歳未満禁止!)。

月夜の道端、おっさんが通行人の女性に向かっていきなり話しかける。「お金はちんぽこですな。ちょっと貯めてすぐ使う人もいれば、たくさん貯めてドバッと使う人もいる」

「何が言いたいんですか?おぢさん」と女性。

おっさんがスーツを全開。下は全裸。「今日で満期」と満面の笑み。

最後は女性に通報される。おっさん、警察にしょっぴかれながら、泣きながら一言「ドブに捨てた」

おっさん妄想する、自分の精液を貯めてプールを作ってみようと。

そうすれば若い女性が面白がって入りにくる。彼女達は次々に自分の子供を孕んでしまう。

皆「責任とって結婚してね」とおっさんにプロポーズ。……そんな妄想をして満面の笑み。

……その後訪れたお巡りさん、空っぽのプールの中に、干からびたおっさんを発見。側には水溜りほどの精液が搾り出された後。お巡りさん、思わず号泣

……以上、興味のある方はぜひ実物を見てください。オチを知っていても、全く違ったインパクトが得られるはずです。


このように18歳未満お断りだが、エロではなくナンセンスギャグとして笑えてしまうのが素晴らしい。

そして死にたいときにこれを見ると、なぜか悩むのが馬鹿らしくなってしまう。そして、少しだけ元気をもらえる。

これが普通のエロだったら全く何も感じないだろう。この漫画は、エロではなく下ネタをうまく調理したナンセンスギャグだからこそ、死にたい時にさえ元気をくれるのだ。

結論

御緩漫玉日記」は桜玉吉の枯れっぷりに共感したと前述したが、「つやつやおやじ」で見られた「エロをうまく調理する」作風の方も、全く衰えていない。そういう意味でも、これらの作品は、「共感する」だけでなく「ある種の元気」も与えてくれる。

このように桜玉吉作品には、桜玉吉の様々なエッセンスがこめられている。一言では説明しにくい、多元的なベクトルがあることがお分かりだろう。

桜玉吉ファンであれば、彼の作品は、死にたいときに読み返すと、必ずや心の支えになってくれるだろう。

and more...

まだ紹介したい漫画があるので、また近日中に更新します。僕と同じような境遇で死にたい気持ちの人に届きますように。そして近いうちに自分がまた必要になると思うから。