神無月サスケの波瀾万丈な日常

神無月サスケのツイッター(@ktakaki00)を補完する長文を書きます。

日の丸検索エンジン構想「情報大航海プロジェクト」の迷走っぷりが凄い

皆さんは日の丸検索エンジンの話は知っているだろうか。若干、言い尽くされた話で今更感が強いが、ウェブで情報を集める限りではあまりの迷走っぷりに驚いているので皆さんにも知ってもらおうと思いまとめておく。

Slashdot Japan の記事(8月1日)

まず、「情報大航海プロジェクトって何?」という人は、ここから読んで欲しい。

http://slashdot.jp/article.pl?sid=06/08/01/0749242
国産でGoogle越えを狙う情報大航海プロジェクトコンソーシアム発足(8月1日)

Slashdot Japanで最初に話題になった記事。僕がこの記事を見たときの第一印象「またか。誰か止める人はいなかったのか。」今でもこの印象は変わるどころか大きくなっている。

上の記事と、引用された(おそらくはほとんど技術者による)コメントを見ても、何一つ明るい見通しがない。きっと誰も止められなかったんだろうなあ。方針転換、例えば何らかの専門的な技術や応用に特化するなどして、何かの形だけでも残してくれれば、そんな様々な意見が聞ける。

ITmedia の記事(11月17日)

そして最近、ITmedia に記事が出た。

http://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0611/17/news082.html
「日の丸検索エンジン」は何を狙っているのか

インタビューに答えているのは中の人であり、仕掛け人と紹介されている。お偉いさん(詳しいことを何一つ知らず、壮大な妄想をしがち)と、IT業界側の批判の双方にもまれる中間管理職的な苦悩が文面から見て取れる。

ライターも以下のように書くには書いている。

批判するのは簡単だが、しかし今後の展開をしばらくは見守りたいと思うのだ。

しかし文面を見ていても全体的に「応援はしたいが、現実的には相当上手くやらないと同じ失敗を繰り返す。成功するのは、針の穴を通り抜けるように困難」と心の中では思っているのが文面からにじみ出てくる。

この記事へのトラックバックを見ても、大抵の意見はSlashdotのそれと変わらない批判的なものばかりだ。

一番端的なものをピックアップする:
http://blogs.yahoo.co.jp/himi0314/6362780.html

文体は第三者が見れば決して心地よいものではないかもしれない。しかし、事情を知っている多くの人はこのことに共感するのではないか。また、僕がピックアップしたことの意味も察して欲しい。

Googleが人材発掘に余念がないのは、言わずと知れた事実だ。
http://www.google.co.jp/search?ie=UTF-8&oe=UTF-8&q=google+%E4%BA%BA%E6%9D%90
もうひとつ、Googleは遊び心に満ちている。日本でもはてなの遊び心の高さは有名だ。
http://www.google.co.jp/search?ie=UTF-8&oe=UTF-8&q=%E9%81%8A%E3%81%B3%E5%BF%83%E3%80%80%E3%81%AF%E3%81%A6%E3%81%AA+google
ITというものが人材というリソースに動かされ、また、そういう人材は遊び心を求めているということは、大切なことだろう。

残念ながら国が主導するプロジェクトにはそれらの点が決定的に欠けている(これはいつものことだが)。金を出せば優秀な技術者がついてきて、有用なシステムを作れると思っている。ひょっとすると、国にとって役に立つ(極論を言うと国民の情報の一元管理)ものが作りたいという下心もあるだろう。まあ、国益うんぬんの話はここでは置いておく。しかし、企業と向いている方向が全く逆だと言うのはこれだけでも痛いほど明白だ。

Google対抗ではないといいながらGoogle八分を批判する矛盾

さて、前述の記事から引用させていただく:

GoogleYahoo!対抗ではない
(中略)
経産省GoogleYahoo!のようなポータルサイトを作り、消費者に利用してもらうと考えているわけではないということだ。
(中略)
検索エンジンというと、インターネット上のウェブサイトを検索するものをイメージする人がほとんどだ。だが世界にはウェブだけでなく、(中略)ありとあらゆる情報やコンテンツ、数値データ、そして企業や個人、サービス、ソフトウェアなどが雑然と存在し、それらが巨大なサラダボウルを構成している。
Web2.0というのは広い定義でとらえれば、このサラダボウルの中からいかに的確に情報を拾い上げることができるか――どれだけ高性能な「UFOキャッチャー」を作ることができるかという概念なのだ。

情報大航海」も、その概念に沿っている。今はまだネットのウェブだけを対象にしている検索システムは、今後ありとあらゆる情報を検索・解析するシステムへとバージョンアップしていく。そして日本企業は、ウェブの世界ではグーグルやヤフーに遅れをとっているものの、リアルに存在するさまざまな情報を検索・解析する要素技術の分野では、世界最先端を走っている技術が少なくない。たとえば画像のパターン認識や、リアルタイム処理、センサーなどの分野だ。

以上が経済産業省の企画調査官の八尋俊英氏の意見を元に書かれた記事であり、これだけ見るとGoogleの対抗をするのではなく日本がリードする技術で、Googleの弱点を補完するようなものを作る意図らしいのだが、一方、経産省はこんなこともアピールしている。

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0610/05/news092.html
Google八分、知ってますか?」眞鍋かをりが“国策検索”アピール (10月5日)

真鍋かをりを使うのは、この際おいておく。てかテレビ見ないからこの人知らんし。
記事によると

Googleの検索結果から特定のWebサイトが表示されなくなる「Google八分」を紹介。中国政府が検閲対象とした情報や、国内の告発サイトがそれぞれGoogle八分にあったと語り、「検索結果が海外の特定企業に決められることがどれだけ怖いか分かるだろうか」と訴える

はて、もし、Googleが対抗ではないというのが正しいなら、このようなアピールは不要なはずだが。

まあ、『Googleがフォローしきれない弱点を補完する凄いものを作る』という純粋な意図を見せたいのは分かる。そこは百歩譲って好意的に解釈する。しかし、それにしても彼らが提唱している内容がGoogle八分の解決策になるかと言うと……どこか焦点がずれすぎているのは明らかだ。

結局僕には「ああ、眞鍋かをりに連呼させてまでGoogleに宣戦布告する意志を見せたいんだな」という経産省の無謀さしか感じ取れなかった。

これらが矛盾していることを批判するつもりはない。問題は、このプロジェクトそのものが方向性すら定まらず迷走しているということが、これだけ見ても明白だと言うことだ。

難しい立場にいる八尋氏の心中お察しする。
そして、このプロジェクトにかかわることになってしまった人の心中をお察しする。

雑感:情報大航海プロジェクトとプレイステーション

一方、僕はこのプロジェクトの動きを野次馬根性で追いかけていきたいと思っている。きっとこのプロジェクトを最初に考えた人(おそらくは無責任なお偉いさん)の中では、きっとGoogle打倒する夢の世界が広がっていたんだと思う。

お偉いさんと言うのは、えてしてこういう妄想にはまりやすい。少し性質は違うが、最近ではプレイステーション3が端的な例だろう。

久多良木氏の中には、当初「夢のゲームマシン」構想があって、その無謀な構想で技術者を翻弄させてきたが、結局普通のゲームマシンに収まってしまった気がする。

http://it.nikkei.co.jp/digital/news/index.aspx?n=MMITew000017112006
しぼむ夢の構想・「PS3」は結局普通のゲーム機なのか【コラム】

なぜこうなるのだろうか。きっと、これまで地道なやり方で成功したプロジェクトを数多く経験した人間の中には、次のプロジェクトが無謀なものであっても、「これまでの経験(成功したから次も成功するぞ、あるいは何度も失敗を経験して学んだから今度こそは)」に何らかの「天啓」がプラスされて冷静な判断力を失ってしまう人も出てくるんだろうと思う。情報大航海プロジェクトも、プレステ3も、立場はまるっきり異なるが、その点では共通しているように思える。

そしていずれも、まだ結論は何も出ていない。ここからどうなっていくのか。成功するとすれば、何が決め手になるのか、とても興味深い。失敗するとすれば、失敗はどこにあると分析されるのか。そもそも初代プレステ成功の理由は、これまでの失敗のケースを研究し、それらを丁寧に避けてきたからだという。果たして今回のプレステ3はどうか。また、情報大航海プロジェクトについては、批判が数々のブログで言われており、見たところきちんと調査すればいくつかの論点にまとめられそうに見える。これらの意見を統合し、今の段階から問題点を洗い出せないだろうか。

なにはともあれ、気になる点ばかりでこれからも目が離せない。

追記: CNETの記事(11/16)

http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20317347,00.htm
Google対抗ではない」--元担当者が語る情報大航海プロジェクトの真実

CNETにも記事があったので、紹介。プロジェクトの元担当者の意見が見られるので、さらに興味のある人は読んで欲しい。しかし、僕はこれを読んでもなお、方向性の定まらなさに対する疑問は全く払拭できなかった。
これまでの度重なる国策IT政策の失敗を覆せるほどの具体性が全く見えてこないという(紋切り型の)批判を長々と書いてもいいが、とりあえず「今は様子見」ということにしておく。今後に注目していきたい。